読みたい本はどんな本?

読んだ本についての感想と、気分で選べるようにジャンル分けをできればなあと。

『失われた足跡』カルペンティエール 海外文学/時代を遡る

[海外文学]
ラテンアメリカの文学 集英社 1984年8月15日 第1刷発行
2段組で237ページ。

[キーワード]
足跡、音楽、文明

[私的なキーワード]
時代を遡る、自分勝手
===============
ざっくりあらすじ

音楽を生業にする私は、かつての恩師からインディオの楽器を見つけ出して欲しいと依頼を受け、半ば無理やり旅に同伴する形になった愛人のムーチェと都会を発つ。
道中の山道で具合を悪くしていたロサリオを加え、私は困難を乗り越えながらジャングルを奥へと進む。それは、都会から未開の地へと距離を移動するだけの旅ではなく、現在から過去へと遡る旅であった。

先行者に導かれ、私はなんとか楽器を手に入れる。しかし、旅はここで終わらずに、先行者が周囲には秘密にしていた大きな秘密を、その先に教えてもらうのであった。

===============

感想

失われた足跡というタイトルから、足跡がキーワードであることは間違いないと検討をつけて読み進めた。気がつけた足跡を伴う文章は、どれも不穏な状況だった。

一つ例を挙げると、鉱脈を教えられた男の場面。男、ヤネスは『貧欲で、嘘つきで、まるで動物がしっぽで自分の足跡を消しながら歩くように〜』と表現される。

物語の終わりでは、直接的に明示はされていないが、主人公は『〜まさしくその歌のために一度来た道を引き返すことになり、もはやどんなに深く嘆いても、ふたたびもとの境遇に戻ることはできないのである』と述懐する。
一見、元来た道を引き返すのは残った足跡を辿るようにも見えるけれど、戻った手段が極めて例外的なうえ、同じ道を辿っていないから、引き返す上で違う道を進んだと捉えたほうが適切である。

時代を通り抜けたという点に関しては、これは川の流れに逆らうことと同義だと思うので、足跡を辿っているわけではないと判断した。

以下、結末を言ってしまう。

足跡は消されるものであり、元来た道を辿ることはできない。だから、主人公が、「きっと戻る」と村に残したロサリオをに誓ったが、川の水位は上がって同じ道をたどれなかった。元来た道が辿れないから、元の状況にも戻れなかった。

全体の感想としては、まったくその通りだと思った。いつでも自分のために、同じ状況が残されているはずがない。変わるものの中で、あなたは変わらないでとこい願うのは、とても利己的なのかもしれないと思ったし、そもそも、そんな願いは叶わないものだと思った。