読みたい本はどんな本?

読んだ本についての感想と、気分で選べるようにジャンル分けをできればなあと。

『一月一日』永井荷風/純文学 当たり前

[純文学]
電子書籍。11p。15分とかからない。

[キーワード]
一月一日、日本食嫌い
[私的なキーワード]
夫と妻、嫌いの理由、悲劇
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ざっくりあらすじ

一月一日の夜、アメリカ支店の日本人銀行頭取の家では、妻君も手伝って日本料理が振舞われ、日本人紳士達のホームシックを慰めていた。

そんな場の盛り上がりの中で、金田という一人の男の話になる。銀行勤の金田は周囲と異なり日本食嫌いで、日本酒、米料理がまったくだめ。日本料理が振舞われる宴会には決して顔を出さないという。

周りからは非難の声が上がるが、先日、金田と食事を共にした男が、金田をあまり責めないでほしいと、その日本食嫌いの理由を語る。
それは、彼の厳格な父と、父の厳格さに従っていた母にまつわる話であった。

男が語り終えるとあたりは静まり、頭取の妻のため息だけが響いたのであった。

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感想

一月一日といえば、目出度いとか賑やかなものばかり取り上げられがちだが、この話はまったく正反対である。けれども、一年の始まりに身につまされる話ではあると思う。

金田の父は何につけても拘りからの小言が絶えない人だった。味噌汁の匂い、沢庵の切り方。

『〜其れも時には礼の一ツも云われゞばこそ、何時も料理と同じ行き届かぬ手抜りを見付出されては叱られておられた』

こんな具合である。
良いところを褒めず、悪いところは重箱の隅をつつくように責められてはたまったものじゃないだろう。

ここではたまたま、夫と妻の関係として書かれているけれど、決して他の関係に当てはまらない話でもないはずだ。身近な関係になればなるだけ、感謝をすることを忘れがちだ。

親子、兄弟、友人、恋人。

いつも何かをしてくれる人に対して、感謝どころかそれを当たり前として受け取って、何につけても小言を言う。それでどうして良好な関係が築けるだろう。

一年のはじまりにこそ、この話を読んでみるのもいいかもしれない。