読みたい本はどんな本?

読んだ本についての感想と、気分で選べるようにジャンル分けをできればなあと。

『タイム・トラベラー』H・G・ウェルズ SF/ディストピア

[SF]
1985年発表

参照書籍
東京創元社 2010年6月18日 45版
173ページ、翻訳 阿部知二
冒険小説のようにさらさらよめる。早ければ2時間あれば読める。

[キーワード]
タイムトラベル、未来、ディストピア

[私的なキーワード]
統制されないディストピア

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ざっくりあらすじ

タイムトラベラーと、仮に紹介される男が、時間を先に移動できるタイムマシンを発明する。そうして、タイムマシンの存在に懐疑的な友人達の前で、自分が行ってきた未来の話を話し始める。

ずっとはるか未来では、現在で見られる動物はおらず、視認できる地上においては小人のようなエロイという種族がいるばかりであった。

彼らは、男も女も容貌が似ており、ほとんど同じ格好をしていた。性格も似通っており、子どものように無邪気で、好奇心でタイムトラベラーに近づき、すぐに飽きては離れて行く。

そんエロイのそばで未来の世界を観察して歩いていたタイムトラベラーだが、タイムマシンの着地した地点に戻ると、元あった場所からタイムマシンが消えていた。場所を間違えたのではなく、何者かが移動させた形跡が残る。不安にかられ、タイムトラベラーはエロイたちを詰問するが、彼らはタイムトラベラーに怯えるばかりであった。

そんなタイムトラベラーに、一人の友人ができる。
きっかけは、その小人が、川で溺れたところを助けたことだ。ウィーナという名の少女は、タイムトラベラーについて行くことを好みタイムトラベラーの心は慰められていった。

そうして様々なことを知るうちに、単純な小人達にも恐れるものがあると知る。それは暗闇であった。幼い子どもが夜を怖がるのかと思いきや、その恐怖にも確固とした理由があることを、タイムトラベラーは身をもって知ることとなる。タイムトラベラーも、暑さを逃れて訪れた廃墟の日陰で、エロイとは異なる生き物と出会ったのだ。

暗闇に生きる彼らは、モーロックといった。明るい場所が苦手で、タイムトラベラーのマッチの火を恐れた。白い冷たい肌に、灰色がかった赤い瞳で、四つ足で走った。草食であるエロイとは異なり、彼らの食卓には肉があった。

どうやら、モーロックがタイムマシンを隠した存在であると知ったタイムトラベラーは、なんとかして不気味な恐ろしい彼らから、タイムマシンを取り戻そうと考える。

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感想

タイムトラベラーが未来の世界を観察しながら、なぜこういう世界になったのか推測しているのだけれど、推測をした時点で、後で説が間違っていたことがわかると表記される。
そのため、読み間違えるとタイムトラベラーの説を間違えて理解してしまうかもしれない。

初期、タイムトラベラーは個人住宅の消えている事実をきっかけとして、『共産主義』と呟く。エロイたちも、男女みな様子がみな似通っているからだ。
けれど、この案を提唱した次の段落で、この考えは後に間違っていたことがわかる、と結ばれる。

それから暫くして、地下で生きるモーロックが現れて、タイムトラベラーは、この世界をこうさせたのは、資本家と労働者の隔絶がもたらした結果だと推測した。

エロイは、資本家の末路。モーロックは、労働者の末路。

エロイへの考察はこう記述される。

『地上人たちは、生活があまり保障されすぎているために、しだいに退化し、体も力も知能も一般に縮小してしまった』

そうして、さらに後から、エロイはモーロックの捕食の対象であることもわかる。これは、モーロックが野蛮なのか、それとも、エロイが知能を持たない、動物と同じという捉え方をするべきか。

さてどうか。

さらに私は二つ疑問に思った。

ひとつに、果たして労働の不必要は知力の低下を生むのか。
ひとつに、エロイは不幸か。

どちらも、私は否定的な答えを持った。

まず、労働の不必要〜のほう。

自分で生活を保障し続けなくても生きていけるとして、それが未知への好奇心を失わせることにはならないだろう。親元で庇護される子どもが執拗に虫に興味を持ったり、絵を描いたりというのは、生活の保障のために行われる行為ではないはずだ。

例えば実在した人でいうなら、尾形光琳伊藤若冲も、裕福な生まれである。(もっとも、伊藤若冲は後年、財産を使い果たして稼ぐ必要が生じたけれども)

もう一つ、エロイは不幸か。

私は不幸とは思わなかった。
迫害も、圧力もないでただ戯れて、水遊びをするというのは、それはそれで一つ幸福かもしれない。

例え、同胞が川に流されても助けない精神性であっても、それは個人を嫌ったのではなく、助けるという概念そのものがなかったのかなあと。いや、あるいは、状況そのもの自体、理解できていなかったのかもしれない。川に流されたら危険であると、理解できなかったのかもしれない。

それから最後に。
現代に戻ったタイムトラベラーが、再びタイムトラベルに出かけるのだが、一体彼はどこへ行ったのだろう。
どこへ行って欲しいかといえば、私は、また同じ未来に行って欲しいと思った。未来の、博物館からの帰路の森での出来事を、なんとかたいと、タイムトラベラーに思って欲しい。